『私をくいとめて』のんが魅せる最高のおひとり様のおもしろさ【東京国際映画祭レポート】

「勝手にふるえてろ」コンビがつくる”おひとり様”を極めた女性の生き様

原作は綿矢りさ、監督・脚本大九明子の「勝手にふるえてろ」コンビの新作です。

本作は公開に先駆けて東京国際映画祭「TOKYOプレミア2020」部⾨出品作品として先行上映されたので拝観しました。

ちなみに、第 30 回東京国際映画祭では観客賞「勝手にふるえてろ」が獲得。そして今回、第 33 回東京国際映画祭ではこの「私をくいとめて」が同じく観客賞を手にしました。

お二方の作品が、女性のみならず多くの映画ファンに受け入れられたことが分かります。

「勝手にふるえてろ」では松岡茉優が主演を演じ、過去の思い出補正満載の片思い相手と現実に目の前にある現実的な彼氏候補との間で揺れ動く心情が描かれていました。

今回「私をくいとめて」ではのん主演を演じています。脳内に相談役の話相手まで存在しているおひとり様上級者のOLが恋愛という戦場においてリアルな人間相手にどう立ち向かっていくかを描いています。

どちらの女性も、世間的なステレオタイプな生き方から外れた、別の言い方では我が道をいくタイプの人間が、行き過ぎてしまいそうになる瞬間を捉えた物語です。

私個人としてはどっちの作品も結末においての選択肢はどちらも楽しそうで、どちらでもハッピーエンドを迎えそうな彼女たちですが、常にその瀬戸際における脳内攻防戦が面白いです。

美少女から美女へ『あまちゃん』以来7年ぶりの のん×橋本愛 の共演

綿矢りさ原作 × 大九明子監督コンビの最新作。(俳優として)能年玲奈名義の『海月姫』以来 6 年ぶりに主演の のん、さらには『あまちゃん』以来の のん × 橋本愛 の共演と、話題に事欠かない今作。

実績、実力に疑いのない、それでいてフレッシュなキャスティングというのもかなり作品の雰囲気に響いたように思えます。

のん 演じる みつ子の唯一の学生時代からの親友の皐月役として橋本愛が出演しています。皐月は国際結婚を経てイタリアのローマに住んでおり、のんは物語の中で みつ子に会いにとうとうおひとり様で海外旅行という快挙?まで果たします。

おひとり様を極めた みつ子と伴侶とともに異国で生きる決心をした 皐月の再会は みつ子にとって重要なターニングポイントとして描かれています。

その皐月役を橋本愛が演じることで親友との再会における心模様を みつ子と同じくして観客も味わうことができるというのはとても憎い演出に思えました。

軽快なテンポとリズミカルな掛け合いはシュールで笑える要素満載

のん 演じる みつ子を軸として、脳内相談役のA、多田くん(林遣都)、ノゾミさん(臼田あさ美)との掛け合いはときにコントのようで、とても笑えます。特に、会社で みつ子が慕っている先輩ノゾミさんはとてもぶっ飛んでいて、みつ子との会話シーンは常に観客を笑顔にしてくれます。

多田くんも、どこか可愛らしさがあり、すこし図々しかったり、優しく距離を詰めていく人柄は林遣都が上手に演じていました。多田くんは みつ子の恋の相手です。恋愛に関しては奥手の みつ子、対する多田くんも年下で積極的というタイプでもない。その2人の距離の測り方はシュールでとても滑稽に映ります。

実際、主要な登場人物は片手で数えるくらい、とはいえ皆キャラが立っているので、あまり考えずにストーリーが頭に入ってきます。そこにテンポ良しな掛け合いで笑いを散りばめてくるので、観ている側としては本当に気楽に楽しめる作品になっています。

橋本愛が舞台挨拶で「みつ子の選んだことが、女性すべての幸せと謳った作品ではない」「人と関わるということをあらためて感じてもらえるとうれしい」と話していました。観終わった今だと、その言葉はとてもしっくりきます。

個人的に私自身はおひとり様タイプですから、喜び、苦しみ、逃げたくなる気持ち、などは男性の私でも共感できるものでした。ただし、男女平等を謳いつつも、制度や社会風土が追いつかない側面がある中での男女のおひとり様の違いはあると想像します。

その生半可じゃない覚悟と意識の高さを持ったおひとり様の生き様を観られるというのが本作『私をくいとめて』です。

私個人としての受け止め方ですが、ひとりは孤独でなく、ひとりを極めた先に、「関わる」ことの重要性、大変さ、偉大さが見えてくるのだと感じました。

ディズニーランドに行くような身を任せて違う世界に行く感覚で(公開されたら)劇場に足を運んでほしい作品です。

『私をくいとめて』

映画『私をくいとめて』本予告 〈12月18日全国ロードショー〉

監督・脚本:大九明子(『勝手にふるえてろ』『甘いお酒でうがい』)
原作:綿矢りさ(『勝手にふるえてろ』『蹴りたい背中』)
キャスト:のん、林遣都、臼田あさ美、若林拓也、片桐はいり、橋本愛

2020年12月18日公開予定