『みをつくし料理帖』- 心をほぐし、その隙間に注がれる”人情” –

Story

享和二年の大坂。8歳の澪と野江は、暮らし向きは違えどもまるで姉妹のように仲が良かった。ところが大坂の町を襲った大洪水で、二人の仲は無残にも引き裂かれてしまう。それから10年の月日が経った。江戸・神田にある蕎麦処「つる家」で女料理人として働く澪(松本穂香)。そんなある日、澪のもとを怪しげな影をまとった男が訪ねてくる。店の評判を聞きつけて「ある方の故郷をしのぶよすがに」と茶碗蒸しを求めてきた。そのある方とは、幻の花魁・あさひ太夫。男はあさひ太夫のいる遊郭・扇谷で料理番をしている又次(中村獅童)だった。又次から上方の思い出話を求められた澪は、幼なじみの野江との話を聞かせる。大坂の新町廓にある花の井に下駄を誤って落としてしまったこと。すかさず野江が自らの下駄を落として「怒られるんも、罰当たるんも一緒や」と言ってくれたことを。あさひ太夫のもとに茶碗蒸しを届けた又次は、土産話に澪から聞いた花の井の話をする。その話を聞いたあさひ太夫は言葉を失う。困っていた幼なじみを勇気づけるために花の井に下駄を落としたのは幼き頃の自分。あさひ太夫こそ、澪の生き別れた幼なじみの野江(奈緒)だった。

Staff/Cast

監督:角川春樹
原作:高田郁
脚本:江良至、松井香菜、角川春樹
主題歌:手嶌葵
出演:松本穂香、奈緒、若村麻由美、浅野温子、窪塚洋介、藤井隆、石坂浩二、中村獅童

端的な感想『みをつくし料理帖』

“雲外蒼天”と”旭日昇天”、2つの天の交わりを軸に人の温かみを料理を通して描いた作品。悪者 が最低限にしか出てこず、登場人物はほぼ良い人。とはいえ日本人が古来持つ文化・風習をベースに人の持つ温かみのみを濾過して、染み渡らせているこの映画は紛れもなく日本人持つ気質だと思えました。

惹かれた/興味深かった点
  • 良い人ばかりが登場人物の映画
  • 料理を通した心のやりとり
  • 又次というキャラクターと中村獅童の演技

どんな人向け?
  • 最近小難しい映画ばかりでたまには頭使わず映画が観たい人
  • 他人を信用できなくなっていたり、心が凝り固まってる人
  • お弁当が好き
  • 日本が好き、邦画が好き、時代劇が好きな人
ひとこと

又次、中村獅童がMVPでしょう。中村獅童の時代劇と言うと『新選組!』の捨助の印象が強すぎて偏りなしに観れるか心配だったのですが、本作においては良いスパイス、良い塩梅の存在感で、作品全体を引き締めていたと思います。
また、浅野温子が浅野温子でした。久しぶりに観れてうれしかったです。

駄文的長文な感想文『みをつくし料理帖』

日本映画を観ている、そして人情映画は素直に染みる。

久しぶりに劇場で ちょんまげ を見ることができました。

冒頭石坂浩二演じるつる家の店主が蕎麦を茹でている場面からはじまるが、蕎麦・台所・小袖・所作、そのすべてから日本を感じ、心にまとう筋肉を緩ませてもらった気がしました。

主演は松本穂香で幼なじみ役が奈緒。

松本穂香が演じるは雲外蒼天の相を持つ澪、奈緒が演じる幼馴染は旭日蒼天の相を持つ野江。この2人を中心とした、料理を通した思い遣りの交換こ、と言いましょうか、人の温もりが恋しくなる人情映画でした。

恐縮ながら私は原作およびドラマも拝見していなかったため、物語も初見で、比較対象なく本編を受け入れることが可能でした。ドラマをご覧いただいていた方には違った印象もありそうです。私は、初見でのレビューとなりますので、その点ご理解いただけますと幸いです。

といいましても、そこまで作品そのものを偉そうに批評する気もなく、事前に少し頭に入れておくと作品をより楽しめたり、振り返っても 気づき がありそうなことを記しています。

澪と野江が生き別れることになった淀川洪水について

享和二年、西暦にして1802年、6月中旬から7月中旬において大阪淀川で2度ほど洪水が起きたそうです。

明治18年(1885年)の淀川大洪水は、享和2年(1802年)と並ぶ大規模な洪水となり、6月中旬から7月初旬にかけての2度の洪水によって、大阪府の北河内・中河内から大阪市全域(上町台地を除く)が浸水しました。この洪水では、大川に架かる川崎橋・天満橋・天神橋・難波橋(南半分)・淀屋橋・安治川橋などが倒壊・流失し、家屋の浸水72,509戸、流失1,749戸、被災者は304,199人となり、この豪雨災害をきっかけとして淀川の大がかりな治水工事が行われることになりました。

引用元:大阪市HP

軒並み大阪に掛かる橋が倒壊するといったことで、澪や野江のように二親を亡くす孤児は多かったと思います。上方から江戸に下り、吉原に身売りされたりというのは案外現実的な話にも感じます。

その中で災害の中で生き抜いた2人において食するということ、つまり料理というのは格段幸せを感じるものだったに違いないでしょう。

1 文 1 両 の現在価値

調べたところ江戸時代末期を除くとだいたいこのような現代の価値になるようです。

1文=20円くらい

1両=10万円前後

つる家で出していた茶碗蒸しが20文がだいたい400円くらいでしょうか

四千両という金額が物語で出てきましたが、つまり大体4億円ですね。

金銭価値をある程度イメージしてから映画に臨むと感じ方がより身近になるかもしれませんね。映画の庶民の感覚を少し学んでから時代劇はご覧になることをおすすめします。

熟語、ことわざに粋を感じる

熟語、格言が物語を表すキーワードとして劇中でも登場してくるのですが、それが粋に感じました。少し語源を調べてみました。

「雲外蒼天」

物語の中で澪が持っているとされた相。

四字熟語として辞書などには載っていることは少なそうです。

とはいえ、1980年頃から一般的に熟語として使われるようになったようです。

意味合いとしては 以下のとおりです。

試練を乗り越えていき、努力して乗り越えれば快い青空が望めるという意味。 雲はさまざまな障害や悩みを暗示している。 「雲外に蒼天あり」ともいう。

引用元:コトバンク

「旭日昇天」

物語の中で野江が持っているとされた相。

こちらは「雲外蒼天」よりは一般的に辞書にも載っているケースはあります。(辞書によってマチマチかもしれませんね)

意味合いとしては以下のとおりです。

朝日が天にのぼること。転じて、勢いが盛んなこと。

引用元:コトバンク

「食は人の天なり」

小関裕太演じる町医者永田源斉が澪に書ける言葉として登場しています。

これは吉田兼好著の徒然草に出てくる件です。本著において、学問、武道、医療に続く重要なものとして、「次に、食は、人の天なり。」として食の大事さを説いています。

長く語らずして行間を読むことに趣を感じる、そういった日本人の好みがこういった時代劇には必ず出てきます。冒頭で感じた安心感と同様に、そういったことが観ている日本人に心地よさを感じさせてくれるのかもしれません。

人情を現代にどう発展させていくか

グローバル化が進み人間関係も合理的に効率的にテクノロジーが浸透してくる中で、こういった長屋文化で身近な他人と絆を育てられる文化は我々日本人の大事なものだと感じました。

グローバルが標準化されかけている現代において、日本人としてガラパゴスな守るべき文化は沢山有るような気がしています。テクノロジーの活用方法においては一辺倒ではなく各国、各民族において適切な方法があるように思います。

人間汚れた部分も、醜い部分もあり、この映画では極端にそれを描いていないようにも思えます。なので、本作に出てくる登場人物たちを真に受けて人間を捉える図式に置き換えては履き違えるのも危険だとは感じます。

一方で描いている温かみは誰もが想像にたやすく実感としても持ち合わせているものでもあり、その温もりもまた事実だと思っています。

人の持つ温かみだけをどう昇華してテクノロジーに乗せて広げていくか、現代に生きる私達は流されず、立ち止まって、考えていくことが必要に思えます。

そんなことを感じた、温かい映画でした。