「ブリング・ミー・ホーム 尋ね人」- 希望と絶望の行き来をする親の現実 –

えぐられた胸に残す「隣人を見よ」のメッセージ

心がえぐられる映画だ。こう言うと慄く人はいるかもしれないが、それなりの覚悟を持って観るべきだ。私個人は胸がつらくなった。でも、スクリーンから離れていまこれを書いているということは深く刺さったものがあった証だろう。

予め言っておくと、この映画は悪人しか出てこない。目を覆いたくなるようなシーンも多い。

そこまでして観客の心に残したいメッセージは映画を通して容易に受け取れる。

  • ・こどもたちの失踪数
  • ・こどもたちへの虐待
  • ・行方不明の子どもを持つ親の苦労・負担
  • ・現在の社会がいかに隣人に関心を持たないか
  • ・地域格差が生む地方コミュニティの閉塞感

リアルとは言えない、大げさなフィクションではあるもの、ないとは言い切れない。もしかしたら、ここで描かれている以上のひどいことが起きている可能性もある。それを想像しろと強く言われているようだった。

悪徳警官ユ・ジェミョンの存在感が際立つ

”母親”イ・ヨンエの感情の濁流に溺れかける

簡単なあらすじは、6年前に行方不明になった我が子を探し続ける母親が、ある日、信憑性の高い情報提供を受けて我が子がいると思わしき場所に向かう。その場所は田舎の小さな町で、なにか違和感を感じる人たちの住処だった。

本作はイ・ヨンエの14年ぶりスクリーンカムバック作とのことで話題になっているがイ・ヨンエも子どもを持つ母になったことでやはり演技も鬼気迫るものを感じる。母性・執念・憎悪のあらゆる感情を抱え、絵に映し出している。

梨泰院クラスのラスボス、会長役を演じたユ・ジェミョンの存在感もやはり相当で、ラストのシーケンスは内蔵を握られたような圧迫感を感じた。

序盤から喪失感、絶望感、嫌悪感、焦燥感、執着心、執念、、、めまぐるしく観客の感情を物語に同期させてくる。そのせいで、息が苦しくなるような物語の後半を味わうのだが。

母の愛の深さを様々な表情で魅せるイ・ヨンエ

多くの子どもが消える事実がある韓国

えぐられるだけではあまりにも自分の心がかわいそうなので、本作の背景にある韓国の子ども失踪事情をかんたんな範囲で調べてみた。

パク・ソジュン主演の「ミッドライトランナー」でも主に若い女性を誘拐する卵子ブローカーの犯罪組織がネタになっていたが、どうやら若年層の失踪というのは韓国としては重たい問題なのかもしれない。

数字で表しているものを簡単に調べてみた。

【出生率/国別ランキング 】
韓国:0.98/202位
日本:1.42/183位

(出典:2018, World Bank)

【人口】参考:

韓国:約5,127万人
日本:約1億2593万人

(出典:2016年,韓国統計庁),(出典:2020年, 総務省統計局)

【子どもの失踪数】

韓国(18歳未満):2万人以上
日本(20歳以下):約1.8万人

【韓国】消えた子供の通報は毎年2万件、5月25日は世界失踪児童の日 | 東京都新宿区の探偵社「オハラ調査事務所」
5月25日は、世界失踪児童の日 って知っていましたか?全世界では毎年800万人以上の子供が行方不明になっています。これは1日に22,000人の子供たちがいなくなっているという統計です。子供がいなくなる原因と守る方法とは。
,(出典:平成28年, 警察庁生活安全局生活安全企画課 )

人口が半分、出生率が世界統計における最下位に位置する韓国。その中で失踪数は日本と同規模である。
日本と同じく高齢化に進む未来が見えている中でこの数字は無視できず、またその要因も先進国としては恥たるものであろう。(日本も他国と比較的割合が少ないがゆえ目立たないだけで、一定数いるというのは事実ということは認識しておくべきことだろう。)

地域格差や隣国事情、貧富格差も関連しているだろう。他にも様々な問題が潜んでいると考えられる。
だからこそ即効性ある抜本的対策は難しく、ひとりひとりが問題意識を持つということが第一歩であることは間違いないだろう。

コロナ禍で人との距離感が定まらない昨今、人のぬくもりを目に写せる世界を望む人はぜひ観てほしい。この映画を観たら少し隣の人に目が向き、声をかけられるようになるかもしれない。

映画『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』予告編