『君は永遠にそいつらより若い』普通に傷ついている普通の人のための映画【東京国際映画祭2020レポート】

冒頭から示されるホリガイというキャラクター

芥川賞受賞作家、津村記久子のデビュー作で第21回太宰治賞受賞作品である『君は永遠にそいつらより若い』の映画化。

原作を読んでいない方(私も)ですが、最初はこのタイトルが何を表しているかわかりませんでした。映画を観て、その中でホリガイが自分の想いをとっちらかったセリフで猪乃木さんに伝えるのですが、そこで発せられる言葉です。

佐久間由衣演じるホリガイは基本調子の良いキャラクターでノリはよいが本音は出さず何事も軽くあしらい、他人に深くは関わろうとしない人間です。そのためか、大学4年生で処女です。
原作とは違い赤毛で、これは佐久間由衣自身のアイディアだそうです。

物語の幕開けは飲み会の場で、ホリガイが同級生から処女いじり、就職に絡ませたモラハラ。あまり気分よくない始まり方をしますが、それさえもキレることなく調子よくあしらいその場から消えるホリガイ。

この冒頭でホリガイのキャラクターが凝縮されています。

ホリガイが持つ足枷と猪乃木が持つ救い

本作は、そのホリガイという人間が奈緒演じる猪乃木さんと出逢い、それから少しずつ心の被りものを脱いで変わっていく様が描かれています。

その変わるというのが如何にホリガイにとっては大きいものか、それが劇中では上手に表現されています。

ホリガイは過去に小学校のときに男子に暴力でねじ伏せられた経験を持ち、そのときから無力感を持ってしまっています。「わたしが並外れて不器用なのは、わたしの魂のせいだ」と放つ様。

小学生、中学生、理屈も道理も分からない年頃なので理不尽が多々潜んでいるのはどこも一緒でしょう。その一部を味わってしまうというのは結構な頻度で我々に起こってそうです。私も他から見ると小さな出来事、私にとっては大きな出来事というのは思い返すといくつかあります。そしてそれが明らかなトラウマになってしまうことも容易にイメージできてしまいます。

そのため性別が違えども、このホリガイという人間はとても興味深く、それはそういったキャラクター形成における課題が、多くの人が共通で持っているものな可能性が高いからだと思ってます。少なくとも私は。

対する奈緒が演じる猪乃木さんは明らかに大きな出来事を過去に経験して、それを乗り越えて現在に至っています。人の痛みに敏感で、その人にとってのささやかな救いが自然と身についているような奥深いキャラクターです。

「赤というカラー」声にならないSOSを誰もが発している

余談ですが、ホリガイのヘアカラー含めて赤という色が意図的にこの作品には散りばめられています。それは声にならないSOSサインという意味合いで本作のテーマカラーとして監督含め赤という色を大事につかっていたそうです。

基本的な物語はこの2人を軸に進むものの、友人の自殺前夜をともにしていたのに異変に気づけなかった小日向星一演じる吉崎。葵揚演じる、巨根で悩むホリガイのバイト先の仲間、安田。まわりの登場人物も個々に悩みをもつ者ばかり。

葵揚のセリフ・演技やホリガイとの掛け合いは真剣な、他人には見えないコンプレックスの一例として、(脳内では真面目に処理しつつも)劇場内は大爆笑。一見の価値あり。

この映画に出てくる人たちは、持たなくて良い悩みを勝手に抱えたり、他人のせいで抱えたりさせられている不条理な生き方をしている人たちだらけです。結局、私達もそうなんですけど。だからこの映画は面白いんだと思います。

「全然大丈夫じゃないのに、大丈夫!って言ってしまう人のための映画」

ホリガイと猪乃木さんが出逢い、分かり合い、苦しみ、自分のちからで自分の人生に向き合うためにどう変化していくのか。

こんなストーリーを観ているのですが、いつのまにか自分の心にそっと手を添えられているような、手当てをされているような感じがする映画です。

シスターフッドストーリーというのでしょうが、女性でなくても、佐久間由衣さん、奈緒さんの演技には救われるものがあったし、このキャスティングと関係性の演出は吉野亮平監督の狙いとするところだろう。

東京国際映画祭のQ&Aで吉野監督が話していた「全然大丈夫じゃないのに、「大丈夫」って言ってしまう人の映画を撮りたかった」がこの映画です。

映画『君は永遠にそいつらより若い』特報