『朝が来る』を観て – 子どもという太陽がうむ光と影を知る

数字の中身をエンターテイメントで知る

社会制度が発達して、弱者救済の仕組みが広がる一方で、我々が知るのは「数」でしょう。ニュースで出生数、出生率、不妊治療に掛かる数、などはニュースで目にすることが多いです。

この映画で描いているのは、子どもを肉体的に授かれなかった人たちと、育てられない子どもを授かった人たちが養子縁組制度を使い、産む親と、育てる親と、子どもと、その3人のつなぎ目を模索する人間ドラマでした。

どんなに素晴らしい社会制度があっても、その内々に目を向けると違ったかたち、違った問題はあるはず。むしろその制度の裏側にある問題をぼかしてしまう危険性も一方ではあります。

数と中身、ともに目を向けることを、あらためて考えるとともに、中身においてはドキュメンタリーや映画などのエンターテイメントというのは、すごく効果的に思えました。それはこの作品がやはり人が人に持つ生き方の興味を最大限惹きつけてくれるものになってくれるからだと思いました。

血縁、分娩、記憶、戸籍、変えられないものは何で、変えられるものは何か。
ひとつひとつの意味を問いただしていかないといけない気がしています。

今回は冒頭で置いた、「数」の話。
ここをあらためて整理しておきたいと思いました。
どの程度起きていることなのか、規模の感覚を持って、この人間ドラマを観ていただくことがより説得力や影響力を作品自体が持つことになると思っています。

想像よりも近くにある”叶わない妊娠”

私が会社員だったときに100人規模の会社で、そのうち子供を持っている人がたぶん思い出す限り20人くらいいたとお思います。そのうちの1人が子どもを授かりにくく、いくつかのチャレンジを踏まえて、人工授精というかたちで子どもを授かりました。

そいつは後輩でそういうのを特に気にせずオープンに話す人間だったので、そこに費やした時間やお金も相当だったと言っていました。

こういう夫婦が20組に1組いるというのが私の経験上の数で、大体5%くらいでしょうか。ですが、こういったことは口外しない方のほうが多いはずなので、定量的な情報を調べてみました。

いくつか散見されましたが、比較的以下が新しいデータでした。

日本では、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は、全体で 18.2%、 子どものいない夫婦では 28.2%です。これは、夫婦全体の 5.5 組に 1 組に当たります。 (国立社会保障・人口問題研究所「2015 年社会保障・人口問題基本調査」による)

厚生労働省

かなり多くの方が悩まれていることに気づきます。

また体外受精などの何かしらの不妊治療を受けて、結果出産に至った数字は以下のとおりです。

2015 年に日本では 51,001 人が生殖補助医療(体外受精、顕微授精、凍結胚(卵)を用いた治療)により誕 生しており、全出生児(1,008,000 人)の 5.1%で、これは、約 20 人に 1 人に当たります。 (生殖補助医療による出生児数: 日本産科婦人科学会「ART データブック(2015 年)」、

全出生児数: 厚生労働省「平成 27 年(2015)人口動態統計の年間推計」による)

厚生労働省

これらの数字を見て、現代社会において不妊というのは決して少数派の問題ではないということが理解できます。

この数字の中には、不妊治療で妊娠に至るケースも存在していますが、原因がわからずあらゆる手を尽くして疲弊してしまう夫婦、結果妊娠に至らないケースも存在しています。

後者の場合は、『朝が来る』でも描いている通りです。どういう理由で子どもがほしいかというのは人それぞれですが、家族を持つ中で血縁というものに拘りが少なければ、養子というのは現実的に頭に浮かぶ選択肢のように思えます。

普通養子縁組と特別養子縁組

養子縁組には普通養子縁組と特別養子縁組と2つの種類があります。

普通養子縁組とは戸籍上で「養子/養女」と明記され、基本的には親同士の契約で完結できます。相続関連で本来は孫だけど祖父の養子に入るとか、聞いたことありますね。親子関係も生みの親と養子として入った(育ての)親とが両方記録され二重の親子関係を維持できます。

特別養子縁組は「長男/長女」と戸籍上記載されます。つまりは養子と戸籍では判断できないようになっています。あくまで社会的に実の親子関係との近似性を強く持っている養子縁組です。なので、成立も親同士の同意契約ではなく、裁判所に申し立てる必要があります。

『朝が来る』では斡旋所のポリシーとして生みの親ではないという告知を絶対としていますが、これは特に制度や法律において縛られていることでありません。

こちらも数を見てみましょう。

厚生労働省家庭局によると、2016年度の特別養子縁組成立件数は538件。
ここ数年増加傾向にあるとはいえ、乳児院に毎年約3000人が預けられ、児童養護施設に暮らす子が約2万6000人いる現状からみれば、非常に少ないです。

親を必要としている子どものうち、80%以上の子どもが親がいない状態で育っているという現状です。

私は「特別養子縁組」という言葉を『朝が来る』を観て、知りました。そして今調べています。そういう繰り返しで少しずつ、でもはやく、行き届くと良いと思っています。

「産」と「育てる」

育てられるけど産めない親と産めても育てられない親と、特別養子縁組がうまく機能するとはいえ、『朝が来る』で特に気になったのは『産めても育てられない親』が置いてかれるかたちになる側面はあり得ると感じました。

『産めても育てられない』。あくまでも本人の意志があればですが、育てられないという問題にも向き合わないと、彼女たちは子どもを渡したあと孤独感を深めるのは想像できます。

その問題は個別様々で決して明るいものとは思えません。

しかし『朝が来る』は社会的に隠れている足元の問題に光を当てるとともに、あらためて家族というコミュニティと社会というコミュニティを考える一助となる、まさに朝焼けのような映画に思えます。

カンヌ国際映画祭に選出とのことですので、ぜひ世界的に評価されることを祈っています。