『あのこは貴族』- 東京に存在する電車に乗る人と乗らない人【東京国際映画祭レポート】

三角関係から生まれるシスターフッドストーリー

『グッド・ストライプス』の岨手由貴子監督最新作『あのこは貴族』
東京という舞台で、2人の女性を中心に、見えない階級に属する人々の生き様を描く物語。

映画というのはそもそもの登場人物における背景設定、つまりは物語における現実界の切り口、着眼点がとても重要な要素だと思います。今作は山内マリコの小説「あのこは貴族」<集英社文庫>を原作としていますが、その登場人物の背景設定と物語における交差点のつくりが秀逸で、静かな物語展開ではあるものの十分に引き込まれました。

その交差する線となる2人について。

ひとりは裕福な過程に育ち、あらかじめ予定調和の人生を送ることを義務付けられている箱入り娘 榛原華子。演じるは門脇麦。

もうひとりは水原希子演じる、東京で羽ばたくことを夢見て努力を重ねて東京の一流大学に入った田舎出身の女性 時岡美紀

対極的に立場の違う2人が青木幸一郎という男性を交差して出逢うことになります。

高良健吾演じる青木幸一郎は格式高い家系の人間で生まれも育ちも一流の人間です。華子とはお見合いで結婚し、夫婦になります。美紀とは同じ大学で顔を合せたことがある程度でしたが、あるときから”都合の良い関係”を続けています。

華子と美紀、2人が出逢うところから物語は大きく展開していきます。

意外だったのが、華子と美紀が同じ画面上に出てくる時間はそれほど多くはありません。ただし、確実に2人はお互いを刺激し、特に華子にとって美紀はどこか憧れの象徴にもなっていきます。

湿度の高い粘着性のある関係で描かれるシスターフッドではなく、乾燥した生地が霧の中で徐々に触感を湿らせていくような、その過程を楽しむ不思議な触感のヒューマンドラマに感じました。

分断社会はそれぞれで苦しい、そして交わらない

本作において描かれているのは階層社会はここ日本でもあること、そしてその階層はそれぞれの苦しみを持ち合わせていること。

どこの階層が幸せだとかいう浅はかな幸福定義はされておらず、足枷は常にだれにでも存在することと、多くの人がそれに気づかず生きていることを暗に伝えてくれる気がしています。

東京が舞台になっている映画ですが、それぞれの階層は同じ東京でもそれぞれの東京を生きており、普段交わることがない。つまりは、華子と美紀の出逢いはイレギュラーであったのです。

所得の格差というのは定量的に分かりやすいものを提示してくれますが、それ以外にも、圧力の格差、選択肢つまりは自由の格差、などはまた存在します。一面的な格差で階級の幸福定義をしていることはすごくステレオタイプを生み、より分断を明白にして物事の本質を解決しないように思えてきます。

華子の苦しみ、美紀の苦しみ、幸一郎の苦しみをこの映画で感じることで、人への理解力を高めることができそうな気がします。

東京国際映画祭の舞台挨拶で門脇麦は「この映画は解放の映画」だと評していました。私もそう感じました。

意外!?にもピタリとハマる配役

映画を拝見する前、個人的にはキャストとあらすじに目を通して、水原希子が華子じゃない?麦ちゃんと逆じゃない?と思っていましたが、いらぬお世話でした。本作のそのとおりの配役は見事でした。

門脇麦が存在感を殺して華子を演じています。華子は家族の中ではどこか意志のない人形のように映ります。
この「どこか意志のない」感というのが緻密な演技だと思うのですが、意志が全く無いわけではなく、それ以上を自ずと求めないそれが当たり前の選択肢と明らかにインストールされた人間という感覚を表現している点を伝えたいのです。

水原希子演じる美紀は田舎から上京、自身の努力で土台をつくってきた人間です。入学時から社会人になり、東京に馴染むほどに垢抜けていきます。ただ、一方で、東京での暮らしは思ったようにうまくはいかず、日々奮闘する生活を送っています。
美しさは相変わらずファンタジーでしたが、この映画におけるどこか雑草感を表現するのに違和感はなく、ひとつひとつを自分の力で勝ち得ていく力強い女性に成長する過程を自信を持って演じています。

この2人の共演シーンは意外と少ないです。派手さがあるわけでもないです。ただ、物語における確実なターニングポイントになっています。
特に2人が再会するシーンにおいて、華子はタクシー、美紀は自転車に乗っている状況で遭遇します。それはつまり日常的な移動手段が異なることを示して、それが決して階層が交わらない理由だと教えてくれます。

観終わった後 – 不思議な感覚に包み込まれる映画

観終わった感想を端的に言うと「不思議」な映画でした。

私も見えない階級に属していて交わっていないのかもしれません。リアルな映画なのにどこかファンタジーを感じます。エンターテイメントなのに同時にそれ以上の説得力が妙にあります。

地に足のついた現実性が十分にあるのですが、たぶんこの映画を観る人がそれぞれが生来持つ領域から抜け出たことがないため、両方の階級を大局的かつ対極的に観るというのは初めての体験であり、それが不思議とエンターテイメントになっているのかもしれません。

何かしら自分の生来持ち合わせているカテゴライズを見直してしまう映画であり、それは何かしらの「気づき」をあなたにくれる映画だと思います。

『あのこは貴族』 

映画『あのこは貴族』 特報

監督:岨手由貴子(『グッド・ストライプス』)
脚本:岨手由貴子(『そこにいた男』)
原作:山内マリコ
キャスト:門脇麦、水原希子、高良健吾、石橋静河、山下リオ


2021年2月26日公開予定